ルーム

ルーム

2015年 / カナダ・アイルランド / 118分

 

監督

レニー・エイブラハムソン

 

原作・脚本

エマ・ドナヒュー

 

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出演

ブリー・ラーソン(ジョイ・ニューサム・ママ),ジェイコブ・トレンブレイ(ジャック),ジョアン・アレン(祖母),ウィリアム・H・メイシー(祖父),トム・マッカムス(レオ)

 

ストーリー

5歳になる男の子ジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)はママ・ジョイ・ニューサム(ブリー・ラーソン)と一緒に暮らしていた。一緒に暮らしていた場所は、普通の家ではなく、暗証番号の必要な鍵を掛けられ、自由に外に出ることを許されない小さな小屋「部屋」だった。

 

当時17歳だったママ・ジョイ・ニューサムは、この「部屋」を所有する男に誘拐、監禁され、そこでの生活を強いられていた。
5歳の誕生日を迎えるジャックは、生まれてから「部屋」の外に出たことがない。ママは、ある計画を立て、息子のジャックと共にこの監禁されている「部屋」からの脱出を試みる。

 

 

ナビ

原作者のエマ・ドナヒューは脚本も手がけ、第88回アカデミー賞の脚色賞にノミネートされました。
また「ルーム」は、第88回アカデミー賞で作品賞、監督賞、脚色賞、主演女優賞の4部門にノミネートされ、主演のブリー・ラーソンはそれほど名を知られてないながら見事アカデミー主演女優賞の栄冠に輝きました。

 

感想

主に映画前半についてですが、ネタバレしていますのでご注意ください。

 

ある母と幼い息子が「監禁」され、生活を強いられている小屋の内側「部屋」映画「ルーム」の一つの舞台となっています。
「監禁」という文字から連想するイメージで、映画「ルーム」は暗く、辛く、息苦しいシーンの多いサスペンス映画とかスリラー映画なのかなとイメージが先行しがちですが、見事に裏切ってくれる映画でした。

 

映画「ルーム」は、母と子の物語です。
舞台の設定が特殊なだけで、普通に母と息子の成長の物語です。

 

ルーム

 

物語は、幼い息子ジャックが5歳の誕生日を迎えるところから始まります。
ママ・ジョイ・ニューサムは、犯人の男に誘拐され「部屋」に7年間監禁されています。
ジャックは、5歳の誕生日を迎えたので、5年間「部屋」で暮らしてきたわけです。
それで…ちょっと待ってください。なぜ、ジャックがいるのかってことに気づきます。
二人で誘拐、監禁されたのではなく、元々は若い娘だったジョイ・ニューサムだけでした。そうです。監禁され、男からの暴行は繰り返され、やがてその犯人の子を身ごもってしまい、生まれたのがジャックでした。

 

予備知識なしで観たら、最初はこの子が女の子に見えるはずです。予告編とかを見ずに本編を観ていたら、映画の途中まで全然わからなかったでしょう。髪が女の子のように長く、可愛い顔をしていますし、声もキュートです。普通に女の子でした。
アカデミー賞で、母親役のブリー・ラーソンが主演女優賞の栄冠に輝きましたが、この子役のジェイコブ・トレンブレイも素晴らしい演技をしています。主演男優賞にノミネートされてもおかしくないくらいに難しい役どころを見事に表現していたと思います。

 

母親役のブリー・ラーソンも良かったです。
でも、正直なところ、オスカーを手にするほどのものなんだろうかと、思ってしまいました。映画全編を通して、子役のジェイコブ・トレンブレイの素晴らしさがキラキラし過ぎていて、そこまで自分的にはグッとくるものがなかったように思います。女性が観たら、子を持つ母親が観たら、また違って彼女の素晴らしさを感じられるのかもしれません。

 

でも、何なんでしょう、彼女の目の力がすごいですね。
真っ直ぐな目が強い意志や真剣さや母親の大きな優しさを感じさせるようでいて、シーンが変われば、人や物を見ているようで見ていないような冷たい突き放すような目をしたりと、こうも目が露骨に感情を表すものなのかと驚きました。

 

ちなみに、ブリー・ラーソン主演の「ショート・ターム」(2014)はおすすめです。
10代の若者を保護している施設でのお話です。この映画でも「ルーム」とはまたちょっと違いますが、子供と向き合い、葛藤する様が描かれていますのでチェックしてみてください。

 

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映画「ルーム」は、前半1時間、後半1時間で全く映画の雰囲気、世界が変わります。
前半は、監禁されている小屋の中でのシーンが延々続きます。
後半は、一転して「部屋」の外に出た後のお話になります。

 

普通なら、監禁されている間のことを延々と見せて、クライマックスで犯人とごちゃごちゃっとなって、遂に解放される、というのがよくある映画だと思います。
でも、「ルーム」は映画中盤で、結構あっさりと監禁生活から解放されます。
ただ、ここからが監禁生活とはまた違った大変さが二人に立ちはだかります。
被害者のその後が、映画後半の物語になります。

 

前半の監禁生活は、映画が始まって約1時間ずっと小屋の内側「部屋」の中でのことが繰り広げられます。一回たりとも「部屋」の外にカメラが出て、観客に外の様子を見せません。外の様子を伺い知れるのは、天窓から見える四角い空だけです。息苦しい1時間が続きます。まさに監禁生活を一緒に体験しているような気になってきます。

 

犯人の男は、夜な夜な「部屋」にやってきては、食料や必要な物を渡し、ママとベッドに潜り込みます。その間、ジャックは男がいなくなるまでタンスの中に押し込まれています。タンスの隙間から見える男の姿やギシギシと軋んでいるベッドの音は、すごく嫌なものでした。

 

でも、息苦しさや窮屈さ、悲壮感の中にいるのにもかかわらず、そこまで辛い印象を受けなかったのは、二人が所狭しと様々なアクションや表情をしたり、グラグラ揺れる手持ちのカメラとテンポの良い編集によって、むしろ楽しそうと思えるくらいに賑やかだったからかもしれません。
とは言え、狭い空間に閉じ込められているのは、やっぱり良いものではありません。

 

そして、ママは5歳になるジャックに外の世界の話をして聞かせ、このタイミングでここをでなければと悟り、この「部屋」からの脱出を試みます。
ジャックが病気が悪化して死んでしまい、死体をマットに包み、どこかへ埋葬してきてほしいと犯人の男に頼みます。死体の振りをしたジャックが外に出て逃げ出し、誰かに助けを求めるというのが、ママが考えた脱出する計画です。
子供が死んでしまい面倒なことになったと男は渋々ママの頼みを聞いて、マットに包まっているジャックをトラックの荷台に乗せ、走り出します。

 

ここからが良いです。
素晴らしいんです。
このシーンを観れただけで満足です。

 

走るトラックを捉えるのは、俯瞰カメラで画面には空が映りません
画面が切り替わって、トラックを運転する男の様子、マットの中から這い出ようとしているジャックが見る間近のマットの模様、筒状になっているマットの先から見える朧げな外の世界の様子、空が微かにしか画面に映らない状態が続きます。緊張感が徐々に高まってきます。
この一連の流れで鳴り響く音楽が最高です。
繊細なギターの音が微かに鳴り始め、次第にドラムの音が重なり、やがてシーンの展開とともに音楽もテンションを上げていきます。
トラックの走り出す音、停止する音、荷台が振動で軋む音、ジャックの荒い息遣い、マットから這い出ようと擦れる音。
この脱出計画は成功するのか、ジャックはうまく計画を遂行できるのか、ハラハラしてきます。胸が自然と高鳴ってきます。映画なので、そりゃ成功するのが明らかなのはわかっています。それでも、わかっちゃいるけど、映像と音楽が見事に相まって高揚感を掻き立てます。

 

そして、やっとのことでマットから這い出たジャック。
荷台の上に仰向けの状態で、遂に外の世界に出ます。
真っ先にジャックの目に飛び込んできたのは、
大きく見開いたその小さな目に映る空は、寒そうで無造作な空、美しい空
「部屋」の天窓の四角い空しか知らないジャックは、目の前いっぱいに広がる空を目にして驚愕とも感動ともつかない何とも言えない表情で空を見ます。
僕自身もこの1時間「部屋」の中を体験して息苦しさから一気に解放され、ジャックと共に空を見た時の興奮を体験したような気がしました。
普段、何気なく見ている空がこんな風に自分に突き刺さってくる経験は久しぶりのような、経験したことのなかったような気がします。

 

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この後の後半1時間は、「部屋」の外の世界での物語になります。
でも、ここからが監禁生活以上と言っていいくらいに、二人の被害者のその後としての生活にさまざまな困難がのしかかってきます。
「部屋」の中ではママとジャックだけの世界でしたが、外の世界には、様々な他者の冷たい視線、好奇の視線、家族であっても微妙な気持ちの悪い空気、隔たりや傷つきなどがあります。
外に出てからは、自分の中にある殻「部屋」に篭ろうとさえします。
それでも、家族の優しさに触れ、知らないことを知り、受け入れていった先には「空」を見た時とはまた違った解放感が待っているはずです。

 

まずは、映画「ルーム」を鑑賞する前に、空を眺めてから入ることをお勧めします。
映画館に入る前の空と映画を体験した後に見る空は、きっと違っているはずですから。

 

空について、熱く書いてしまいましたが、先に書いたように映画「ルーム」は、母と息子の成長の物語です。
優れた俳優たちによる演技で、しっかりと人間が描かれた映画ですので、子供だった頃を思い出したり、子を持つ親になった人だったり、自分と重ね合わせたりして、鑑賞後はずっしりと胸に残るものを得られる映画になっています。

 
 

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