あん

あん

2015年 / 日本 / 113分

 

監督・脚本

河瀬直美

 

原作

ドリアン助川

 

([と]1-2)あん (ポプラ文庫)
ドリアン助川
ポプラ社 (2015-04-03)
売り上げランキング: 2,052

 

出演

樹木希林(徳江),永瀬正敏(千太郎),内田伽羅(ワカナ),市原悦子(佳子),浅田美代子(オーナー夫人)

 

ストーリー

桜の咲き乱れる通りにある小さなどら焼き屋で、千太郎(永瀬正敏)は雇われ店長としてどら焼きを焼いていた。

ある日、徳江(樹木希林)がどら焼き屋で仕事をさせて欲しいと訪れる。その時に手渡された徳江の作った「あん」はとても美味しかった。千太郎は、徳江が50年も作り続けてきた「あん」に感服し、始めは徳江をあしらっていた千太郎だが一緒に働き始める。

美味しくて評判になったどら焼きを求めて客足も増えていくが、ある日店のオーナー夫人(浅田美代子)が千太郎に徳江はハンセン病ではないかと伝える。

 

 

ナビ

河瀬直美監督は、カンヌ国際映画祭の常連になります。
新作を撮り上げる度に選出され、海外で高い評価を得ている日本映画を代表する女性映画監督です。

「萌の朱雀」で、第50回カンヌ国際映画祭カメラ・ドール(新人監督賞)を史上最年少(27歳)で受賞し、第60回カンヌ国際映画祭では「殯の森」がグランプリを受賞しています。
「あん」は、第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品されました。
第69回カンヌ国際映画祭(2016)では、短編コンペティションとシネフォンダシオン両部門の審査員長を務めることも決まっています。

 

感想

ネタバレしていますのでご注意ください。

映画「あん」の中で、どら焼き「あん」を作るシーンがあります。
仙太郎(永瀬正敏)と徳江(樹木希林)の二人で、日の昇らないうちからじっくりと丁寧に「あん」を作ります。
しつこいくらいにじっくりと一つ一つの工程を重ねていきます。
ふわふわの生地と濃厚そうな「あん」は、画面を見ているだけで甘い香りが漂ってきそうで、とても美味しそうでたまらなかったです。

映画「あん」を鑑賞した後は、無性にどら焼きが食べたくなりました。
事前にどら焼きを買っておいてから映画「あん」を鑑賞することを強くお勧めします。

 

映画「あん」は、千太郎(永瀬正敏)が重い足取りでアパートの階段を登り、屋上でタバコを吸うシーンから始まります。屋上から見える景色には、桜が咲き乱れています。
疲れたような表情の千太郎が重い足取りで向かうのは、桜が咲き乱れている通りに面した小さな小屋で開いているどら焼き屋です。
仙太郎は、以前傷害事件を起こしてしまい、相手に障害を負わせてしまった過去がありました。その時に賠償金を肩代わりしてくれたのが、この店のオーナーである先輩でした。そのため、この店を続けて少しずつでもお金を返済している身です。
仙太郎は、過去に、この小さな店に、囚われている身でした。

永瀬正敏は、良いですね。
何とも言えない未来を諦めた表情、苦渋の表情、その表情の奥で嚙み潰しているような感情がひしひしと伝わってきます。正に文字どおり、表情が物語っています。

 

樹木希林も素晴らしい演技をしています。
ハンセン病患者の徳江を見事に演じています。
樹木希林は色んな映画に引っ張りだこですが、どの映画で見ても「樹木希林」は「樹木希林」でしかないように思っていました。でも、映画「あん」での樹木希林は、ちゃんと「徳江」になっていたと思います。

この徳江もまた千太郎と同じように、囚われている人間です。
ハンセン病という病に囚われ、世間から隔離され、理解されない冷たい視線や差別、出産をすることも許されず、想像を絶するような人生を歩んできました。

人生の終わりを迎えようとしている束の間、千太郎の店でどら焼きを作ることができた喜びを、こちらも嬉しくなるくらいに見事に樹木希林が演じていました。

 

主要な登場人物の一人として、樹木希林の孫である、内田伽羅(ワカナ)がいます。
素人っぽい演技が、良くもあり悪くもあったように思います。むしろ、千太郎と徳江の二人の物語に絞った方が良かったのではないかと思いましたが、千太郎と徳江を結ぶ重要な役割を担っています。

ワカナも囚われている人間です。
男にだらしのない母親との生活から抜け出したいと思っています。
この年代の子供なら誰でも一度は思うであろう、ここから抜け出してここではないどこかに行きたい、みたいなことを考えている少女です。
生活しているアパートでは、鳥かごで鳥を飼っています。この鳥が、ワカナ自身を表してもいます。
母親が始終鳴く鳥を煙たがり放したがっています。娘であるワカナのことも面倒だと思っていることを感じているから、なおさらこの生活から出て行きたいと強く思っています。

 

映画「あん」は、各々の囚われているものから解放される物語ではないかと思います。

やがて季節は移り変わり、徳江は亡くなります。
彼女が囚われていたハンセン病の体から解放されます。
彼女の命は途絶えましたが、生前の想いや言葉は、手紙の文字として、テープに吹き込まれた声として、一緒にどら焼きを作った僅かな時間でも思い出として、千太郎やワカナの胸の中に生き続けます。

季節は巡り、再び桜が咲く頃、仙太郎は小さな店を出ます。
ワカナも一つ歳を重ね、自分でできることが増えて、自由と責任を伴う大人にまた一歩近づきます。

 
 

ラストシーンは、桜が咲き誇っている公園。方々から、はしゃぐ子供たちの声が響いています。
ファーストシーンで、引きずるように重そうな体、苦い表情の千太郎はもういません。
閉じ込められていた小さく狭苦しい小屋ではなく、春の穏やかな陽が降り注ぐ桜の下で出店をしています。
そして、力いっぱい「どら焼きいかがですか!」と声を張り上げます。

僕は、「どら焼き一つください!」と言わずにはいられませんでした。当然、手元にはどら焼きがありません。その後、近所のコンビニにどら焼きを買いに行ったのは書くまでもありません。

 
 

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