ボーダーライン(字幕版)

ボーダーライン

Sicario
2015年 / アメリカ / 121分

 

監督

ドゥニ・ヴィルヌーヴ

 

出演

エミリー・ブラント(ケイト・メイサー)
ベニチオ・デル・トロ(アレハンドロ)
ジョシュ・ブローリン(マット・グレイヴァー)
ダニエル・カルーヤ(レジー・ウェイン)
ジョン・バーンサル(テッド)

 

撮影

ロジャー・ディーキンス

 

音楽

ヨハン・ヨハンソン

 

Sicario (Original Motion Picture Soundtrack)
Varese Sarabande (2015-09-18)
売り上げランキング: 804

 

ストーリー

アメリカとメキシコの国境地帯が舞台。
メキシコで日常的に誘拐事件などを行っている麻薬カルテル(コロンビアの犯罪組織)を追う極秘作戦にCIAのマット・グレイヴァー(ジョシュ・ブローリン)が指名したのは、FBI捜査官のケイト・メイサー(エミリー・ブラント)だった。
得体の知れないコロンビア人のアレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)らと共に作戦に参加するが、ケイト・メイサー(エミリー・ブラント)はCIAの本当の狙いを知らされぬまま、麻薬カルテルを追って行った先には…

 

 

ナビ

第88回アカデミー賞の「撮影賞」「音響編集賞」「作曲賞」にノミネートされました。

 

感想・鑑賞ポイント

ネタバレしていますのでご注意ください。

 

ポイント1

邦題が「ボーダーライン」ですが、原題は「SICARIO」です。
スペイン語で「暗殺者」の意味です。
その暗殺者は一体誰のことを指しているのか。
主要な登場人物は、エミリー・ブラント、ベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ブローリンの3人です。この中の誰かがタイトルになっている「暗殺者」です。
いきなりネタバレになりますが、それはベニチオ・デル・トロです。
映画の主人公にはエミリー・ブラントがそえられていますが、「ボーダーライン」の真の主人公はベニチオ・デル・トロです。

 

ベニチオ・デル・トロの得体の知れない不気味さ、顔面力は凄まじいものがありますね。
北野武監督作「アウトレイジ」に出ているいかにもなヤクザ顔の役者が束になっても敵わないんじゃないかと思うほどです。

 

暗殺者ベニチオ・デル・トロのいつ暴発するかわからないような怖さがあります。終始声のトーンは低いままで徹底されています。三流映画ならクライマックスシーンとかで叫んだり感情を露わにするシーンがあると思いますが、それらはなく感情が一定に保たれ続けているのがさらに怖さを感じさせます。また、歩いている時の仕草が何故か猫とか犬とか狼のような動物の歩く軽やかさのような独特の歩き方だったのが気になりました。

 

暗殺者らしくあの大柄な体で機敏に精度高くサイレンサー付きの銃で麻薬カルテルの構成員を撃っていくのはカッコ良かったですね。映画「ボーダーライン」は、暗殺者ベニチオ・デル・トロの復讐の話と言っても過言ではありません。

 
 

ポイント2

暗殺者の話でもありますが、邦題に「ボーダーライン」と付いているので境界線の話でもあります。

 

映画「ボーダーライン」のストーリーはシンプルです。
FBI捜査官であるケイト・メイサー(エミリー・ブラント)は、CIAのマット・グレイヴァー(ジョシュ・ブローリン)に指名され、麻薬カルテルを追う作戦に参加します。
その作戦の本当の目的を知らされないままのケイトは蚊帳の外です。ルール違反に近い捜査や行動を目の当たりにしたり、時には汚職警官を捕らえる囮として利用されたりしながらも、マットに抗議し反発しながらも作戦は続行されていきます。
そして、ケイトはマットにCIAの本当の狙いを知らされます。それは、CIAの狙いは別にありますが、マットらと行動を共にしているアレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)の復讐を遂行することが狙いの一つでした。メキシコで検事をしていたアレハンドロは妻子を麻薬カルテルに奪われてしまった過去がありました。その復讐を遂行するために、CIAと取引して作戦に参加していました。
そんな法やルールや倫理などは無いに等しい境界線の間でケイトは翻弄されます。
邦題のタイトルでもある「ボーダーライン」はこの辺から付けられていると思いますが、アメリカとメキシコの国境付近が舞台であり、法律が無いような地帯での攻防の中で何が正しくて間違っているのか、善とは悪とは何かが無意味に思えるような境界線を巡るお話です。

 

話の流れを普通に追っていけば丁寧にセリフで説明してくれますし、なかなか身近ではない世界の話ですが、分かりやすい映画だったと思います。

 
 

色んな映画を観る上で観客が一番感情移入しやすいのは主人公になると思います。
映画「ボーダーライン」でも感情移入して、映画のストーリーを追うのは、エミリー・ブラントになると思います。エミリー・ブラントと同じ状況に観客が置かれるように、上手く場所や小道具などが利用されています。

 

例えば、ジョシュ・ブローリンらが会議をしているシーンがその一例です。FBIの会議室でのシーンです。ガラス張りの中で上司らが話し合っている間は、エミリー・ブラントはガラス一枚隔てた外側に置かれた状況で、中で話されている内容がわかりません。文字通り蚊帳の外状態です。観客も同様に会議の話の内容が分からないようになっています。
このように、今起こっていることは何なのか、自分の知らないところで起こっていることが見えない聞こえない状況の中で、エミリー・ブラント同様観客も不信感や不安感を感じるように構成されています。
また、作戦を遂行する隊員に厳つい男性しかいない中、エミリー・ブラント女性一人しかいない状況も疎外感、孤立感、蚊帳の外感を感じさせます。
それらを意識して観なくても、自然にエミリー・ブラントと同じような状況に観客を置けるように計算されているのが上手いなと思いました。

 
 

アメリカとメキシコの国境が舞台になっているのが象徴的なように、境界線が所々で効果的に使用されています。

 

例えば、ラスト近くにこんなシーンがあります。
クライマックスでCIAと取引して手を組んでいたベニチオ・デル・トロの目的は達成され、一連の作戦は終わりを迎えます。
参加した作戦による失望や怒り、恐れに苛まされているエミリー・ブラントは、自宅のテラスでタバコを吸っています。ふと、背後の窓で揺れるカーテンに何かを感じます。その何かが何なのかを察して、恐る恐るカーテンのあちら側である部屋の中へ入っていきます。その先には、影の中で銃を向けているベニチオ・デル・トロがいます。今回のCIAの作戦は全て法を遵守されて遂行されたことを示す書類にサインをしろ、と半ば強制的にサインさせます。
部屋を出て行ったベニチオ・デル・トロに、再びテラスに出たエミリー・ブラントは彼に向けて銃を構えます。対峙した二人ですが、銃の引き金は引かれることなく、ベニチオ・デル・トロは去ります。

 

境界線をわかりやすく象徴的に表しています。
外のテラスと部屋の中は、内と外であり、こちら側とあちら側を表しています。
テラス側にはエミリー・ブラントがいますので、法のある世界、ルールのある世界、善も悪もある世界です。
部屋の中には銃を突きつけているベニチオ・デル・トロがいますので、法の無意味な世界、善も悪もない世界です。
その二つの領域を隔てているのが、窓、揺れるカーテンです。これが境界線です。

 

つまり、法の無い世界である部屋の中に入り、サインはできないと何度も拒否するエミリー・ブラントですが、命の危険を晒されてサインをせざるを得ないわけです。法も善も悪もない世界での行動だからです。
ベニチオ・デル・トロを追い、彼女はテラスで銃を構えますが、何故撃たなかったのか、撃てなかったのか。テラス側は法のある世界、ルールのある世界、善も悪もある世界です。法を遵守した正当な理由がなければ撃てない。悪になるわけにはいかないので撃てなかったわけです。

 

また、先にも書きましたが、CIAの作戦含めて映画のほとんどのシーンではエミリー・ブラントの女性一人に対して、周りは全て屈強な男性隊員だけです。この人物の配置や設定も男と女という境界線で区切られています。

 

映画「ボーダーライン」は男たちの世界の話です。
つまり、女性であるエミリー・ブラントは、映画が始まった最初からすでに男たちの境界線の外に置かれた蚊帳の外の存在だったのではないかと思います。それは逆に考えると、彼女だけが映画の中で、他にはいない唯一の立場の存在です。

 
 

ポイント3

映画「ボーダーライン」をさらに高みへと押し上げているのが、ロジャー・ディーキンスの撮影ヨハン・ヨハンソンの音楽ではないでしょうか。
映画は、目と耳から入る情報が大きいですので、撮影と音楽が素晴らしいと良い映画がさらに素晴らしいものになると思います。

 

もちろん、他の要素も素晴らしく、それらが互いに潰し合うことなく調和して効果的に作用しているので、非の打ち所の無い映画になっていると思います。

 

ロジャー・ディーキンスの撮影は、空からの真上から真下を撮影したショットやシンメトリックな構図などは観ていて、いちいちカッコイイですね。ロジャー・ディーキンスは、007の「スカイフォール」などを撮影しています。

 

ヨハン・ヨハンソンの音楽も素晴らしいですね。
映画の雰囲気と非常にマッチしていたと思います。不安感を煽るようなノイズのようでいて胸がドキドキしてくるような高揚感がある音楽でした。
ヨハン・ヨハンソンの音楽がなければ、ここまで緊張感や不安感を感じることはなかったのではないでしょうか。この音楽が、映画「ボーダーライン」の質を何段も上げていると言っても過言ではないと思います。

 
 

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